Bedtime Story
By Jennifer.Lon
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「どう?じゃれつきたいような感じ?」
 ナポレオン=ソロは、パートナーの背筋を指で撫で下ろした。
 彼ら二人は、世間の事情はひとまず忘れ、どこかのホテルの一室でいちゃついていた。さながら二本のスプーンのごとく。
「僕は犬じゃない」
「んっ?」
 よく日に焼けた首の付け根に押し付けられていたナポレオンの唇が、途中で止まった。
「じゃれたりするのは犬だろう?僕は犬じゃないよ」
「ああ、もちろん犬なんかじゃないとも」
 彼は微笑んで、繰り返した。
「虎か……でなきゃ狼だな。そう、それだ。美しい、金色の狼だ」
 やっと聞こえるぐらいのイリヤの嘆息が聞こえ、彼のパートナーはベッドの中で身を返し、顔を合わせて来た。またうんざりした目つきで、また『無意味にロマンティック』だとお説教されるのかしらん、とソロは予測した。

 驚いたことに、恋人は口元に、からかうような笑みを浮かべていた。
「これが低俗なホラームービーなら――」
 イリヤが言った。
「僕は今から狼に変身してるよね」
「それで、僕は獣○させられるんだな、間違いなく」
「いやぁ、違うね。君がナイトクラブでひっかけた、若い女が部屋に入って来る。君が期待に反して、自分を置いて帰ってしまったのは何故かと知りたがって。当然、僕は彼女を噛み殺す。映画はそのあと、悪いのは僕の中にある獣性だということを、君が証明しようとする話になる」
「で、成功するの?」
「しない。最後に君は僕を退治せざるをえなくなる」

「えー、そんな映画は嫌だな。もう少し現実的なのはどう?」
「フィルム・ノワールは?」
「お好みなら、」
「僕のせいで君に捨てられたことを知って、若い女が部屋に入って来る。そして僕を殺す。映画はそのあと、君が彼女を追いつめていく話になる。彼女は君を愛しているからだと説きつける。悪いのは君でもあり、僕でもあり、とにかく自分以外の誰かだ。でもなんだかんだで、君は彼女を警察に突き出す」

「それもあまりいいとは思えないなぁ。スパイ映画なんかどう?」
「今の僕等がスパイ映画じゃないか、ナポレオン。西部劇もあるよ」
「O.K.」
「若い女が、君に甘い言葉で騙されて逆上して、君が家畜を盗んだと保安官に言いつける。彼女と保安官がやってきて、君を檻にぶち込む」
「僕等が一緒にベッドにいることは気にしないの?」
「多分、どうして『二人しか』いないのかという方で不思議がるだろうな。昔の西部なんだよ、ナポレオン。一つのベッドに6人ぐらいで寝てたんだ――続けて構わない?」
「もちろん、どうぞ」
「君は牢屋に入れられる。僕は君を牢から助け出すが、その途中で殺されてしまう。女は懺悔して謝るが、君は傷ついた心を抱え、たった一人夕日に向かって去っていく」
「ハッピーエンドの映画はないもんかね?」

「ああ……じゃあポルノグラフィーだ」
「ほ、それは良さそうだな」
「君と僕がベッドにいる。おかしな役名で――君はナポレロング、僕がコックヤチンとかなんとか」
「それで、若い女は?」
「若い女?」
「そうだよ。君の話す映画に唐突に出てくるあれさ」
「若い女はいないんだ。これはゲイ・ポルノだから」
「ならいいや。あらすじは?」
「あらすじ?」
「だから、ストーリーは?」
「君はポルノ映画をみたことないのか、ナポレオン?」
「ああ、ゲイのやつは無いけど」
「あらすじは無し。僕等はベッドにいて、やってる。色々とあられもない体位になったりして――そして二人とも、90分の上映時間中に十何回も絶頂する」
「うわ、それは大変だな」

「夢物語だよね」
「僕の夢は、君だよ。それに君となら……」
「ナポレオン、そんなに無茶しなくてもいいんじゃないか?」
「これはポルノ映画って事だろ」
「ふーん……そうか。だとすると、君は何を待ってるの?」
「誰かが『アクション!』って言うんじゃなかったっけ」
「ナポレオン、」
「イエス?」
「――アクション」


◆おしまい◆

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