WHO'S COUNTING?

by Ariadne

 固く閉ざされたドアの外からですら、アパートはやけに暗く空虚なものに思えた。暗くて空虚な――自宅。
(なに悲劇ぶってるんだ、クリヤキン)
 イリヤは屈んでドアの鍵を開けながら自嘲した。何かを期待していたわけでもあるまいに。

 ナポレオンはニューヨークを離れていて、多分明日の夜まで帰ってこない。特務課主任の特別会議がバルセロナで行われていて、予定では一週間以上かかることになっている。それだからナポレオンは、先週のうちにイリヤのバースディをお祝いしようと言い出したのだ。
 ニューヨーク州の北部にある山の中での、それはロマンチックで忘れがたいバースディ。イリヤは誕生日についてセンチメンタルな感情を抱いたりすることはなかったのだが、ナポレオンに付合っている限りは――彼はふっと笑いを浮かべながら思った――年に二、三度ならばセンチメンタルな気分になるのも悪い事じゃない。
 ただ、あの日は自分の本当の誕生日ではなかったというだけだ。自分の誕生日は今日だった。そして今日という日が特別になるとすればそれは……
(止せ、)
 彼は自分を叱りつけた。そんな事になってたまるもんか。

 彼は暗い部屋のドアを勢いよく開けながら、溜め息を押し殺した。ナポレオンが居ると居ないとで、自分のアパートがこうも違って見えるというのも妙な話だ。いい部屋じゃないか、と彼は自分に言い聞かせる。高い天井、床には上等のカーペット、ビレッジの古道具屋で少しずつ買い揃えた、しっかりした造りの具合のいい家具。夜に、また旅から戻ってくれば、この部屋はいつも自分を暖かく迎えてくれたものだった。
 それが今ではナポレオンが居る時でなければ、そう感じられなくなっているようだ。もしくは、そんな期待を抱いている時にだけ。
 彼はブリーフケースを下ろした。中には今夜待機している間に書いてしまうつもりだった報告書のフォーマットが詰まっている。戸口のすぐ脇のクロゼットに向かいながら、今夜のうちは書類に手がつけられないだろうなと思った。何なら明日早起きして……。
 だが今は、彼は芯からくたびれていて、身体のふしぶしが痛み、銃声や手榴弾の爆発音がまだ耳の中で鳴り響いているようだった。ジャケットを荒っぽく脱ぐと、無造作に(ナポレオンがいればさぞ眉を顰めたことだろう)ブリーフケースの上に放った。
 夕食はどうする?冷蔵庫の中に晩飯として食べられるようなものはあっただろうか?だったら助かるんだが。キッチンに足を踏み入れると、蓋をしたゴミ箱が微かな悪臭を放っているのに気がついた。今朝持ち出す暇もなく出てきてしまったのだ。やる事がまたひとつ出来た――明日の朝に。
 冷蔵庫を開くと、二日前の晩から残してあったチキンカレーのすごい臭いが押し寄せてきた。ぞっとして後ろに下がると、ドアを閉めて冷蔵庫に背を押し付けた。
 食べ物なんか知った事か。どれぐらい食欲があったにせよ、それはもう消し飛んでしまった。残飯がああもひどい臭いを出していたからではなく、強烈な臭いが他の色々な臭いを思い出させたせいで。
 ゴムの燃えるきつい悪臭、塩辛くどこか甘い血の匂い。

 冷蔵庫のドアに頭を預け、イリヤは目を瞑って今日の出来事を頭から締め出し、山の中の秋の木立を、ナポレオンを目に浮かべようとした。
 かつてナポレオンに、自分たちの任務に時々巻き込まれてしまう一般人と変わらないようなエージェント仲間の扱いについて非難されたことがある。若くて、サバイバル・スクールをやっと出たばかりの彼もその部類で、無邪気にも最も都合の悪い時に、数ヶ月間のトレーニングや教本の内容を忘れてしまったのだろう。
 パートナーの考えならまだしも、そういう連中の考えをイリヤはナポレオンのように読み取ることは出来なかったし、ナポレオンがいつもしているように、彼らが状況によってどう行動を変えていくかをアテにすることも出来なかった。彼に出来るのは、彼らについて責任を負い、彼らが自殺行動に走るのを止めようとすることだけだった。
 畜生・畜生・畜生!

 イリヤは冷蔵庫から背を放した。食べ物がなければ飲み物は――。
 しかし冷凍庫に手が掛るより前に、昨夜食料の買い出しリストに『ウォッカ』と書いたのを思い出した。この間切らしたばかりだったのだ。
 それでもナポレオンに見つからないように、キャビネットの一番上の棚に上等のコニャックを入れてある。これは祭日用に、アメリカの『感謝祭』が来た時のために買っておいたものだが、今この時は、このボトルがあった事に彼は感謝した。
 カウンターの前に椅子を持ち出し、安定を確かめながらよじ登る。壜に手を伸ばした拍子に傷めた背中に響いて、彼は呻き声をあげた。やや手間取りつつコニャックを開封し、下の棚からグラスを掴み出すと、奥にあるベッドルームにまっすぐ向かう。グラスとボトルをベッドサイドに置き、それから明かりを点けた。
 最初シャワーを浴びて、それから液体の夕食にしようかと考えた。熱いシャワーはさぞ気持ちがいいだろう、けれど、と彼は思った。自分にそんな気力は残っていない。明日する事のリストにもう一つ追加だ。
 気が進まなげに、彼はシャツのポケットからコミュニケーターを取り出すと、コニャックの横に置いた。ブラッドリーの危篤状態が変化したら(良きにつけ悪しきにつけ)すぐ連絡をくれる約束になっている。時計を見遣ると、イリヤが病院を後にしてからほぼ二時間が経過していた。彼はもう一度コミュニケーターを眺め、ほんの僅かな視線が掛るだけでも、それが残酷な現実を告げに鳴り響くのではないかと怖れさえ抱きそうになった。
 長い溜め息を吐き出すと、イリヤはのろのろと服を脱ぎ、床に落ちるに任せた。ベッドに上がると、オーク材のヘッドボードに寄りかかり、グラスにコニャックをなみなみと注ぐ。彼は今日の出来事を頭から追いだそうと努めた。
 ナポレオンのことを、山のことを考えるんだ。どれほど自分にとって彼が大切なのか、どれだけ必要な存在なのか、ナポレオンは知っているだろうか?


 時計の文字盤は3時15分を差している。バルセロナの会議が予定より早く終わってみると――実際、何だって最近のスラッシュの動向についての記録を検討したり、新しい武器や装備のデモンストレーションを見たり、ちょっと話し合うぐらいでそんなに時間がかかると思い込んでいたやら――ナポレオンはどうにかバースディに間に合うように戻ってイリヤを驚かせてやりたかった。十日前に楽しんだようなバースディのお祝いをしてやったっていい。ナポレオンは思い出し笑いを浮かべたりした。
 しかし、帰りの飛行機はバルセロナでエンジントラブルのため数時間遅れ、果てには霧のためにJFK空港への着陸も遅れた。そして、今夜じゅうに帰ると電話をするには遅すぎる時間になってしまった。それは本部に連絡を入れてみて、この日のイリヤがどんなだったか知ったせいとも言えるのだが。
 スラッシュの武器工場を殲滅するという秘密の計画は、経験のないエージェントのせいで台無しになった。プラントは破壊したものの、エージェント二人が負傷した。
 未経験なブラッドリーの生命は、目下危うい状態にある。彼は朝まで持たないかもと言われ、その後数時間イリヤはICUの外で待機していた。しかし男のパートナーが到着すると、第三者がいても邪魔にこそなれ気安めにはならないとよく承知しているイリヤは、何か変化があれば知らせるように頼んで帰宅したのだ。
 自分のパートナーは最善を尽くしていて、失敗があったとしてもそれは彼自身に誤りがあったのでないことを、ナポレオンは十分に聞かされた。ブラッドリーは命を取りとめたとしても、U.N.C.L.E.に留まるのを許可されたとしても、現場に復帰する事はもうないだろう。
 彼のような男がサバイバル・スクールを通過してくるのは滅多にないことなのだが、それが起こってしまった。こういう時に、予想できないのと同じぐらいに避けられない誤ちが起これば、先輩エージェントの心境は……。
 どんな気分になるのかナポレオンは知っていた。それは、適正のないエージェントを送り出した時の正に代償、相手に対して責任を負う者が被る損害のようなものだ。イリヤより二年余計に経験を積んだことで、ナポレオンにはある程度の見通しはつけられるようになったものの、決して容易いことではない。

 そんなわけで、彼は午前3時15分、イリヤの部屋のある三階のフロアを静かに歩いていた。全く音を立てずに暗いアパートの中へ入り込み、リビングの奥から明かりが漏れているのに目を止める。
 ベッドルームのランプだ。上着にタイ、ショルダー・ホルスターを取る間だけ立ち止まって、ナポレオンは今や自宅同様に慣れ親しんだベッドルームへ真っ直ぐに向かった。
 コニャックがサイドテーブルにあるのに彼は驚いた。イリヤは酒に溺れるタイプではないが、ストレスを感じた時に一杯か二杯飲み、気分を和らげて眠りにつくことはあった。こういう場合に、彼が上等のコニャックを引っ張り出してきたことが驚きだった。
 ナポレオンの口元に、小さな笑みが浮かんだ。パートナーはぐっすりと眠り込んでいる。これはコニャックが如何に良き物であるかの証というやつだ。
 イリヤはうつ伏せに身体を伸ばし、腰の辺りまでシーツを引き上げていた。顔は壁の方を向いていて、寝乱れた髪にほとんど隠れてしまっている。左の腎臓のあたりを横切る引き攣れた傷痕に、ナポレオンは自分のもののように顔をしかめた。それと左の腕に走る長い掻き傷が、この日彼が受けたものであるらしい。ランプを消し、彼を眠らせておくのが一番思いやりのある行動だろうか。
 部屋をもう一度ざっと見渡すと、足元に脱ぎ捨てられている服と、いつもは別室に置いているコミュニケーターがランプの明かりに光っているのが目に留まった。屈んでトラウザーとシャツを拾い上げる。昨日やり残したことを片づけるところから新しい日を始めるのは気分のいいものではないし、彼のパートナーらしくないことだった。この一日で彼がどんなに参っているかのもう一つの印に思える。
 ナポレオンは心を決めた。服を片づけ、自分も下着一枚になって自分の服もその脇に置き、ベッドの脇に戻って膝をついた。

 イリヤを起こそう。問題はどうやるかだ。彼を目醒めさせて、愛されているのがどんなに素晴らしいかと感じる以外の全てを忘れさせたい。
 ナポレオンは優しく手を伸ばして、逞しい肩をそっと包んだ。それから変色した傷痕に、ごく軽く口接けた。姿勢を変えながら、むき出しの肩の線により熱っぽく口接けする。イリヤの首筋をなぞっていくと、じっとしていた身体が突然目を醒ました。
 腕の中でイリヤが身体を捻り、戸惑っているような表情で見つめてくる。ナポレオンがここにいる理由が説明できるかのように時計をちらりと見た。
 イリヤが現実に戻ってくるまでの間、ナポレオンは相手を捉えなおし、胸元に濡れたキスを落した。
「――ナポレオン?」
 イリヤは愛おし気に彼の顔を両手に挟んだ。ぼうっとした表情がいきいきとした、明るい微笑みに変わる。
「ナポレオン……」
 ナポレオンが一言も告げないうちに、彼はパートナーの腕の中に引き寄せられ、口腔にイリヤの甘い舌が強引に差し込まれた。
「ちょっと、待ってよ、」
 彼は息を切らせて身体を引き、一旦この場を納めようとしたが、再びイリヤが被さってきた。ナポレオンに身体を押し付けて、シーツの上に仰向けに引き倒す。もう一度ナポレオンの唇は、馴れ知ったパートナーの唇に捕らえられた。その間にも伸ばされたイリヤの手が胸元を愛撫し、もう片方の手はナポレオンの頭を抱え込む。イリヤが唇に、目元に、頬に熱いキスを降り注ぎ、ナポレオンは話をしようとするのを諦めた。
 イリヤの熱い指が彼の体躯を滑り降り、筋肉のかたちに沿って撫でていって、遂にはナポレオンのコットン・ブリーフにまで辿り着いた。その下でナポレオンの昂ぶりは痛いぐらいに顕わになっている。イリヤの指が彼自身に絡み付くと、ナポレオンはイリヤを宥めるように後ずさった。
「そんな、止せって……」
 イリヤの口の中に囁くが、触れてくる指に呼び覚まされた欲求が、ゆっくり進めていこうとする思考を抑えつけてしまう。ナポレオンは両膝を立て、腰を持ち上げた。今度は窮屈な下着から解放されるために。そして気がつけばまたイリヤに、シーツの上にすっかり押し倒されていた。
 横向きになってナポレオンを見下ろすと、イリヤはナポレオンの腿の間に右膝を割り入れた。すこし前までナポレオンを抑えていた手が下へと探るように動く。
 濡れた指が一本体内に入り込むと、ナポレオンはその先を求めて腰を持ち上げた。イリヤが覆い被さって胸元に顔を擦り付け、ナポレオンはその金色の髪に指を絡ませた。イリヤを落ち着かせるとか、ペースを保とうという考えはすっかり消え去ってしまい、身体の中で蠢いている指に合わせて腰を揺らしながら、刺激してくる唇を歯を、物欲しげに胸の尖りに導く。
 ナポレオンが両脚を更に広げ、イリヤはその間に完全に身を納めた。触れてくるパートナーの指は、知り尽くしたように深いところで動いていて、ナポレオンはイリヤの欲望に向けて膝を持ち上げた。イリヤの指に代って、彼の昂ぶったものが即座に入り込む。
「んっ――…」
 ナポレオンは柔らかく呻き声をあげた。腰の位置を変え、さらに彼を奥深くへ迎え入れる。前を嬲られながら腰を突き入れられて、ナポレオンは押し寄せてくる快感に翻弄された。至福の時――以前のどの時よりも素晴らしい。そのたびに前より快いと感じてしまう――イリヤの脇腹や肩に手を這わせながら彼は考えた。そして、もう何も考えられなくなった。

 イリヤが息を乱しながら胸によりかかっている。ナポレオンはかつてないほどの、骨まで融けてしまったような快感に浸っていて、思考が戻ってくるまでしばらくかかった。少しの間ただ息をついていたが、やっとナポレオンは囁いた。
「一体……どうしたの?」
 金髪の頭が持ち上がり、イリヤはわざとびっくりしたような視線を向けた。
「どの辺がわからないのさ?」
 見るたびにキスしたくなるような訳知り顔の、悪戯っぽい微笑みが口の端に浮かんでいる。しかし手を伸ばしてイリヤの顔を近づけた刹那、彼の眼差しが変化し、考え深げな翳りがさした。
 イリヤはナポレオンの二の腕を掴んで、唇を寄せようとするのを途中で止めた。イリヤが尋ねる。
「ぼくがどれだけあんたを愛しているかわかる?」
 ナポレオンは長い間何も言わず、ただ真摯な青い眼差しを見つめていた。疲労と、深い物思いを見て取ると、彼は優しくイリヤの額から、汗に濡れた髪の房を梳き上げた。イリヤはその手に顔を預けたが、視線はずっとナポレオンの目から離さなかった。
「僕は……」
 急に喉が詰まったようにナポレオンはそこで咳払いをした。
「僕が君を愛しているのと大体同じぐらいならいいな、と思ってる……
 イリヤが言葉を返せるより前に、ナポレオンはイリヤを引き寄せて長く貪るように、胸の中の思いを全て注ぎこむように口接けた。

 コミュニケーターが鳴り響く音が聞こえた瞬間、イリヤの唇が離れる。クソ、こんな時に。
 ナポレオンの視線から顔を背け、イリヤはうるさく音を立てる機械に手を伸ばした。そしてナポレオンの上に乗っかり、横を向いたままで静かに応答した。
「クリヤキンだ」
「お伝えしたいことがありましたので。ブラッドリーは人工呼吸装置を外して自力呼吸に戻りました。助かる見込みはあります」
「ありがとう」
 イリヤは呟くように答えた。コミュニケーターにキャップを丁寧に嵌め、テーブルの方に放ると、気が緩んでどさりと身体を倒した。
 胸に顔を埋めてきたイリヤの湿った艶やかな髪を撫でながら、ナポレオンは胸を濡らしてくるのは汗なのだろうか、それとも涙なんだろうかと考えた。空いた手で、ナポレオンはイリヤの裸の肩を擦り、相手の気分が静まるのを待った。
 無言のままいくらか時間が過ぎて、ナポレオンは横向きになると、イリヤを仰向けに寝かせて頭を腕に抱えた。ようやく自分を見上げてきた目元に愛おし気に口接け、瞼を伏せさせると彼の睫毛が唇をくすぐった。

「――ここで何してんの?」
 もう一度目を開け、イリヤはたった今やっと気がついたかのように聞いてきた。
「君の誕生日だから来たんじゃないか」
 イリヤの手のひらを頬に持っていきながら、ナポレオンは答えた。
「遅いよ」
「まぁそうだね。でもよく言うじゃないの……
「知ってる。だから言うのはよしたんだ」
 ナポレオンはにっと笑った。
「ところで、君はアメリカ伝統の誕生日の習慣を知ってたかな?」
 イリヤが金色の眉を寄せる。
「他のアメリカの習慣じゃなくて?駐車場で車を止めて、後のトランクを空けてピクニックのお弁当を食べたりするようなやつ?」
「そりゃピクニックじゃなくてテイルゲート・パーティだ。それにはステーションワゴンがなくちゃ。言っとくけどこの習慣は、それよりもっともっと面白いんだよ」
 そう言うと相手はまた疑い深げな視線を投げた。
「へーえ?」
「そりゃあもう、ね。やりかたはこうさ。誕生日をお祝いされるやつを、年の数だけ舐めてやるの」
「え……って……舐める?」
「ひと舐め、」
 ナポレオンはそう言って、イリヤの耳の周りを丸く舌でなぞり、区切りをつけるように舌先を差入れた。イリヤがぞくりと身を震わせる。
「年のぶんだけね。ひねくれた奴は、鞭でぶたれた方がマシだって言うけど」
 ナポレオンは顔を引いて、イリヤを真面目くさった表情で見た。
「鞭にして欲しい?」
 イリヤが笑って首を横に振った。
「よかった。こんな朝っぱらからビレッジで鞭を探すのは大変だもん」
 さっき擽った耳元にキスし、そのまま耳の裏から首筋へと唇を滑らせる。喉仏の辺りに来て、周りを舌で丸くなぞると、イリヤが喘いだ拍子にそこが上下した。
「これでふたつ、」
「……ナポレオン、」
 少し息を乱しながら、イリヤが言った。
「イエス?」
 浮き上がった鎖骨の下のやわらかな窪み、そこを口に含むように、押し付けるようにつぅっと舐める。
「みっつめ、」
 イリヤは愛撫に身を捩らせた。
「ナポレオン、今思ったんだけど――君が本気でこの……習慣をしまいまでやる気なら、正確に何歳なのかを知っとかなきゃ……
「お誕生日のコの?」
「……そう、」
「それは言えるな」
 ナポレオンは答え、それから薔薇色の乳首に注意を向けた。舌で周りをなぞってから先端に触れて、そこが固くなったのを確かめる――よっつめ。
「で、君の場合は、それじゃあ……
 おっと、もう片方も忘れちゃいけない――いつつめ。
「幾つ……って?」
 イリヤが荒い息を吐く。
「十六歳?」
「にひゃくにじゅう――さんさい……

THE END

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