Act-1
Act-2
Act-3
Act-4
Act-5
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The Drughouse Affair : Act-3
-Z-
恋人の死から、イリヤはひたすらに5つの任務をこなしていた。
ナポレオンからどれほど多くのことを学んだか、彼は思い知った。馬鹿げた言い方ではあったが、事実として彼は、ナポレオンが自分の中で生きていると感じた。こんな時にソロならどうするだろうかと考え、その度に彼は上手く立ち回れた。
彼はまた、可能な限り暇になるのを避け、仕事のない時にはいつも、友人達のだれかと用事を作っていた。
彼等はウェイバリー氏から自分のスケジュールを教わってでもいるのか、休みになって一人で家にいることになりそうな時はいつも、誰かが彼を夕食に誘ったり、映画に連れ出したりした。
この事についてもナポレオンが正しかった。友人がいるのはいい事だった。
イリヤが専ら、U.N.C.L.E.で働きづめにしていれば、あの時のことに向き合わずにいられるという考えはあまり上手くいかなかった。どころか、彼が働きづめにしているせいで、ウェイバリー氏に叱り飛ばされかねなかった。事実、数度に渡り叱責はされた。
最初は、爆発の5日後、ウェイバリー氏から特務課主任に昇進するように言われた時だった。イリヤには、自分の恋人の墓の上を土足で踏むような罪悪感しか感じられなかった。
しかしそれは、ウェイバリーが彼に、新しいパートナーと組むように命じた時に比べればものの数ではなかった。言い争いは大声で長いこと続いたが、今のところはイリヤの勝ちだった。
イリヤが最初の単独任務を成功させたことで、ウェイバリーは彼が任務を全うしているうちは、新しいパートナーを押し付けたりはしないと了解し、今に至っている。
新しい任務は、ナポレオンが嬉しそうに言っていたところの『Cakework』(お茶の子)になりそうだった。THRUSHの建物に侵入して、レイアウトを把握し、発見されないうちに忍び出るだけでいいことになっている。
この計画の構成は、クリヤキンが地図を作った1週間後に、総攻撃をかけてTHRUSHの支局全体を殲滅するというものだった。U.N.C.L.E.の全情報源によれば、THRUSHはここに麻薬工場を移転させている。イリヤはそれを潰してやりたかった。個人的な理由で。
暗くなるのを待ち、イリヤは建物に忍び込み、何の問題もなく1階のレイアウトを把握した。警備員が二人上がってくるのを見つけ、彼は壁の影に隠れて彼等の一人をやりすごし、地下に通じる階段を下って行った。
その時突然、怒りに満ちた叫びが聞こえてきた。大声で「やめろ」と言っているような。
その苦悶の響きに、イリヤの胃の腑が捩じ上げられるようだった。ウェイバリーから姿を見せずにいるよう言われてはいたが、あんなに苦しんでいる誰かを置いて立ち去ることは出来そうにない。
彼は意志を固めて、階段を降りた。正面のドアの格子ごしに覗くと、中に二人の人影を見つけた。
影のひとつは、壁に縛り付けられているようだった。男の姿は、正面に立っている巨漢の影になって殆ど見えない。その男は、縛られている男の腕に向けて、ほとんど空になった注射器を突き出している。
クリヤキンはどうにか、注射器を持った男の言葉を聞き取った。
「ほう」
その男は悪辣な声で言った。
「俺のジャンキーは、本気で今日はもう打って欲しくないって?」
相手が痛いように、注射針を引き抜く。
「それじゃ辛くなるだけなのにな」
その男は2歩後ろに下がった。その時クリヤキンが音もなく扉を開け、男の背後に立って、銃を頭に突きつけた。
「その注射器の中身は何だ?」
断固とした口調で言う。その男は驚いてとび上がり、身体をひねって銃を取り出した。
「銃を捨てろ、」
イリヤが言う。
「こいつを食らいたいか?」
男は銃口を脇に下げ、それ以上持ち上げなかったが、捨てはしなかった。
「U.N.C.L.E.は、自分のところのジャンキー・エージェントを取り返したがってるらしいな」
そして阿呆のように笑った。
イリヤは、銃を敵の頭部に突きつけたまま言った。
「中身は何だと聞いている」
男が振り返り、クリヤキンの表情に好ましからぬものを感じて、答えた。
「ただの、THRUSHの新しいオモチャの試作品さ。ただのちょっとした、ヘロインとか呼ばれてるもんさ、」
相手がぎくりとしたのを見て取り、男は銃口を上げた。イリヤはためらいもせず、男の眉間に一発撃ち込んだ。
駆け寄って脈を調べ、銃を取り上げた。突然、背後から低い声がした。
「こ、ろ、せ」
囁き声がした。
ありえないその声に驚愕し、イリヤの動きがぴたりと止まった。
立ち上がって、振り向いた。
「ナポレオン?」
ショックで声を震わせながら、言った。
ナポレオン=ソロは、手足を壁に縛られていた。殆ど裸で、汚れていて、自分のパートナーの方を向いたまま、なにひとつ解っていないようにただぶら下がっている。彼の目はわずかに薄く開いているだけだった。
イリヤは、暫らく彼を上から下まで眺め下ろし、生きているその身体に見入った。そして、駆け寄ってその顔に軽く、触れた。
「Napasha……」
その肌触りで、これは夢でも何かの幻でもないことを確信した。
自分の恋人は生きていた。痩せ衰えてはいるが、彼はたしかに生きている。
彼は膝をついて、震える手でソロの足を壁につないでいる枷をはずした。立ち上がって手を伸ばし、手首の拘束具も外して、倒れ掛かる友人を受け留め、強く抱いた。
「Napasha、聞こえるか?」
パートナーからは何の反応もない。若いロシアンは動揺に身震いしたが、ようやく、最も大切な事に思い当たった――早く友人を連れてここから出なくては、二人とも死ぬことになる。そしてイリヤは、もう死にたくはなかった。
震えはじめたナポレオンを、イリヤは寄り添って自分の体温で暖めようとし、それから、そっと相手を壁に寄りかからせ、死体になった巨漢に駆け寄った。
手っ取りばやく男からジャケットとシャツを剥ぎとり、そのふたつを持ってパートナーの所へ戻って、相手の身体を覆った。
クリヤキンは、ナポレオンを立たせて肩に担ぎ、片腕でしっかりと握って、もう片方は銃を構え、出口へと向かった。100フィートほど進んだ所で、ソロの震えが激しくなり、押さえ切れないほどに身を捩じらせ、片手では支えられなくなった。
銃をホルスターにねじ込んで、イリヤは震えている体に両腕を差し入れ、胸元近くに抱え上げて、正面出口へ、車へと向かった。
身震いしているパートナーの身体を助手席に置くと、イリヤは膝をついて相手を愛しげに抱擁したあと、手を離して屈み込み、恋人の顔にそっと触れた。ソロは、やっと息をしている状態だった。
「愛してるよ、ナポレオン。君を病院に連れて行くから」
ソロの目がいきなり開いたが、まだパートナーの姿を捉えてはいなかった。
「医者は、嫌だ!」
ひび割れた声で、彼はぼそりと言った。
「オレをここで殺すか、誰にも見つからないところへ連れて行け。だが、医者は嫌だ」
彼のそぶりに、恋人を認めたしるしは見つからなかった。イリヤはその毒々しい口調に驚愕した。
「ナポレオン、君には医者の手当てが必要だよ」
彼は屈んでパートナーの顔を両手で挟み、目で訴えようとした。
「僕では、君を助けられるのかわからない」
「医者は嫌だ!」
ソロはまだ友人の顔を直視することなく、繰り返した。
「でなければ、今すぐ銃を貸せ」
争っても何もならないとイリヤは思った。友人をどこか暖かい場所に連れていって、怪我の具合を調べなければならない。
「分かった、君の勝ちだ」
屈んで、パートナーをシートベルトで固定し、急いで反対側に周り、運転席に乗り込んだ。
車をスタートさせる前に、イリヤは手を停め、一つ深い息をつき、僅かの間だけ目を閉じた。それから自分のパートナーの、震え続けている体に視線を向けた。
動揺を抑え付けながらそのやせ細った身体を見、やっと車を走らせ、自分達のアパートメントのあるビルへと向かった。
駐車場に入ると、空になっていたナポレオンの駐車スペースに車を停める。身を翻して助手席に周り、恋人を抱え出した。
ソロはまだ意識がなく、イリヤがシートベルトを外し、彼を腕の中に納めるには1分ほどかかった。その痩せた体を持ち上げてみて、彼は身震いした。捕らえられていた間に、友人がどれだけ体重をこそげ落とされたかが、この時わかった。
遅い時間だったので、ありがたいことに駐車場にもエレベーターにも他人の姿はなく、イリヤはアパートメントのドアを開いた。
まっすぐに寝室へ向かい、友人をそっとベッドの上に寝かせてから、バスルームに行って湯栓を開いた。何より先に、ナポレオンの身体から汚れを落とし、暖め、何か食べさせなければならない、と彼は思った。
イリヤは首を振って、頭に浮かんだパートナーのイメージを振り払おうとした。
イリヤが寝室に引き返した時も、まだソロに意識はなく、なるべくそっと身体からジャケットとシャツを脱がした。抱き上げてバスルームに行き、注意深く湯気の立つバスタブに下ろして、痩せた体躯を軽く擦っていった。
THRUSHが自分の恋人にどれほどの苦痛を与えたのか、それを目の当たりにするにつれイリヤは怒りを募らせていった。注射針の跡や傷痕が、両腕を上から下まで覆っていた。更に両脚にも、足の先にすら針の跡があった――ナポレオンは、ピン・クッションにされていた。
捕まっている間に、彼の体重は20〜30ポンドほど落ちているように見えた。暖かい湯の中ですらも、その肌はじっとりと冷たく、張りを失っていた。
クリヤキンが友人の身体を洗い終えた時、ナポレオンが数秒間息をしていない事に気が付いた。
中毒者が麻薬の影響で呼吸停止に陥ることがある、というヘロインについての説明を思い出した。ぐずぐずしてはいられなかった。
パートナーの動かない身体をバスタブから引き上げて、床に横たえ、手早く鼻翼をつまみあげて、口内に二度、短い息を吹き入れた。
「あぁNapasha、僕をおいて、死ぬな」
イリヤは囁き、顔を上げてみて反応がないのがわかると、また屈み込んで同じ事を繰り返した。
ひゅうと喉が鳴って、ナポレオンはやっと息を吹き返した。イリヤは壁によりかかり、恋人を引き上げて、間近に抱き寄せ、息をする彼をわずかの間見つめた。
こうしてはいられない、とイリヤは彼を抱き上げて、寝室に戻った。厚手のスウェット・スーツを着せて、上掛けを掛けた。
パートナーの横に座り、彼は愛おしげに手を年上の男の頬にあてて、震えている自分自身の身体を抑えようとニ、三度深呼吸した。
人工呼吸のやり方を憶えていてよかった――突然、彼をある事実が打ちのめした。
THRUSHは、自分のパートナーをヘロイン中毒者に仕立てたのだ。
-[-
次に何をするべきか、イリヤは長いこと懸命に考えた。パートナーは今ベッドに居るが、そのうちにナポレオンは目を覚まして、薬を欲しがるかもしれない。
医者には診せないと友人に約束したし、本部の誰にも、自分に何があったのか知られたがらないだろうことは、イリヤにも分かっていた。
しかし彼には助けが必要だったし、例え約束を破ったとしても、もっと重要なことがある。
コミュニケーターの代りに電話を使って、イリヤは本部に連絡した。医局にダイヤルし、キース=ゴードン医師を呼び出す。
電話の向うから、即座にゴードンの声がした。
「こちらゴードン」
イリヤは、受話器を下ろそうかと迷ったが、自分の友人、恋人が眠るベッドの方を見て、他に選択肢はないと思った。ひとつ深い息をして、彼は言った。
「ドクター・ゴードン、」
「ミスタ・クリヤキン?」
返事が返ってきた。
「何かあったのかね」
「ドクター・ゴードン、あなたの助けが要ります、」
イリヤは静かに話した。
「ただし、この話を内密にして戴くとの保証付きで」
ゴードンがすぐさま言い返した。
「イリヤ、必要なのは何だね」
イリヤは少し考えて、言った。
「仮に、お尋ねします。男が一人、年齢は30代前半、1ヶ月前までは健康体。おそらく今まで、殆ど食事は与えられず、強制的にヘロイン中毒にされていました」
イリヤには、ゴードン医師がそれらの要素を頭に取り込んでいる回転音が聞こえるようだった。
「イリヤ……」
ゴードンが穏やかに応じた。イリヤは素早くそれを遮り、
「これはあくまで仮定の、内密の話に願います。この人物を生かしておくために必要な物と、最善の手段は何ですか?」
ゴードンの声は相当に厳しく、職業的なものだった。
「イリヤ、君が何故これを内密にと望むのか解った。君はナポレオンを……」
クリヤキンがなおも遮った。
「それ以上は言えません。彼が麻薬についてどう思っているかご存知でしょう?彼は自殺しかねない。お願いします」
ゴードンはほんのわずか考え込んだ。
「大負けに負けておこう。私が薬品と医療器具を持ってそちらに行く。とにかく、診察はさせてもらうよ」
イリヤの声に怒りが混じる。
「できません」
ゴードン医師は彼を黙らせた。
「イリヤ、君に他の選択はない。君が承知しなければ、私はまっすぐウェイバリーの所へ行く」
イリヤが悄然とした。
「わかりました。僕等はアパートメントにいますから、必要なものは何でも持ってきて下さい。但し、誰にも言わないで」
彼は受話器を掛けながら、目を閉じて自分の行為が正しいことを祈った。眠り続けるパートナーの側に座り込み、腕を伸ばしてその寝顔に軽く手を添わせた。
「君は、大丈夫だ」
声に出して言った。
「僕等は大丈夫だ。約束する」
頬を涙が伝いはじめ、相手の様子を調べることに集中できなくなった。
「死ぬなよNapasha、僕には、君が必要なんだ」
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イリヤは、最初のノックの音に答えた。ナポレオンはまだ眠り込んでいる。
クリヤキンは診察の間じゅうずっと、彼が眠ったままでいてくれることを祈った。ドアを開けると、キース=ゴードンが厳めしい様子で、中に入ってきた。
「彼は何処にいる?」
イリヤが彼を引き止めた。
「キース、その前にこのことを誰の耳にも入れないと約束して下さい。僕はもう彼との約束を破ってしまっている」
ゴードンは、信じられないと言うように彼を睨んだ。
「私が、かつてエージェントとの約束を破ったことがあるとでも?」
イリヤは潔く恥じ入ってみせた。
「済みません、キース。でも僕にはどうしていいかわからない。彼を助けなくてはならないのに、彼はどんな治療も拒否しています。もう一度彼を失うのは耐えられない」
ゴードンは、もっと何か言いたそうに彼を見ていたが、言わなかった。
「彼は寝室に?」
イリヤが頷いた。
ゴードンは寝室へと足を向けた。ベッドに横たわる、やせ細った身体を見て、彼は戸口で立ち止まった。
「Dear God――なんてことだ」
胸の内で呟いたあと、彼はあくまでも医者として、寝室に入り、ベッドの前に立った。イリヤが彼のすぐ横に続いた。
医師は、彼を振り返った。
「イリヤ?」
クリヤキンが穏やかに相手を制した。
「出て行きませんよ。僕は、治療が済むまでずっとここにいます。彼に質問は出来ないし、僕なら事情が分かっている」
ゴードンが無言で頷いた。
「彼に何か処置を?」
イリヤはベッドの横に座り直し、恋人の手を取った。
「身体を洗って、服を着せただけです。車に載せた時から意識はなく、入浴中に呼吸停止状態になりました」
ゴードンは全て予想通りとでも言うように、また頷いた。
医師が診察しながら、THRUSHの注射針による凄惨な傷を目にし、普段通りのしかめ面に怒りを湛えてゆく。イリヤはそれを見守っていた。
「針の跡は、両脚と足先にも」
半時間の診察ののち、医師はナポレオンの手当てにかかった。イリヤは不安になってきた。
「キース、」
答えを恐れるかのように、彼は問い掛けた。
「彼は助かりますか?」
ゴードンは、治療器具を全て片づけると、向き直って戸口へと向かった。イリヤも続いて立ち上がった。
立ち止まってパートナーをちらりと見てから、キッチンへと向かう。カップをふたつ取り出して、自分達のためにコーヒーを注いだ。
ゴードンが席に就いた。
「イリヤ、彼には入院治療が必要だ」
「出来ません。彼は、病院は嫌だと」
イリヤは言い張った。
「そんなに悪いんですか?」
ゴードン医師は深い溜め息をついた。
「極度の栄養失調に脱水症状を起こしている。ビタミン剤を与えておいたが、体内に点滴で水分を与えてやる必要がある。針の跡の数からすると、彼は捕らえられた日からヘロインを打たれ続けていたんだろう。完全な、麻薬中毒だ」
イリヤは目を瞑った。予想はしていたが、間違いであるよう祈っていた。
「僕は、どうすればいいでしょう」
ゴードンが振り向いて、視線を合わせた。
「麻薬中毒者がどのようなものか見たことがあるのかね、イリヤ?始めにメタドン(合成麻酔剤)を使っていけば、症状は抑えられる」
クリヤキンは首を振った。
「キース、薬は駄目だ。パートナーの事は僕がよく分かっている。彼は一刻も早く、薬と縁を切りたい筈だ」
「そんなに簡単なものではないよ。ここまで悪化していれば、ナポレオンには君が分からないかもしれない。攻撃的になり、多分君に向かって怒りを発散させるだろう。怒鳴りつけたり、その他に……」
医師は立ち上がって、窓から外を見た。
「症例は様々だし、目下の彼の状態からすれば、助からないかもしれない。入院させなければならない理由は、そういう事だ」
イリヤは、医師に正しく理解して貰うためには、ありのままを話すべきだと思った。
「キース、もし彼を入院させたら、彼は機会を見て自殺するだろう。もし誰かに中毒の事を知られたら、そのまま姿をくらますかもしれない。彼を貶めるようなことは、僕には認められません」
それから口調を和らげた。
「彼がどんなになろうと、僕は受け止めてみせる。するべき事を教えて下さい」
ちょうど1時間かけて、ゴードン医師が説明を行い、イリヤがそれを書き留め、友人のことはどうにか出来るという決心をつけた。
ゴードンは、年若いエージェントが、書き付けの上にペンを置くのをじっと見ていた。
「これで保証はできないよ、イリヤ。彼がどんなに健康だったかを知ってはいても、全ては今、彼にどれほどの体力があるかにかかっている」
ゴードンが立ち上がった。
「君の気が変わったり、彼が入院を望んだ時には連絡したまえ」
そして出口へと向かった。イリヤが彼を呼び止めた。
「ありがとうキース。彼の状態はずっと記録しますし、何かトラブルがあった時には連絡します」
そして立ち上がり、戸口まで送っていった。
「イリヤ、気は確かなんだろうな?」
感情をちらつかせながら、ゴードンは若いロシアンの顔を伺った。
「君が彼を入院させたことを知らせる必要はないんだ。彼はおそらく、誰に救助されたかも憶えていないだろう」
クリヤキンはドアに手をかけ、開いた。
「彼に分からなくても、僕は知っている。僕等はお互いに嘘はつかないと約束したし、今それを破るようなことはしない」
ゴードンが出てゆき、イリヤは後ろ手にドアを閉めて、寄りかかって目を瞑った。
「ああ、神様……」
声に出して言いながら、彼は身体を起こして、寝室へと戻った。
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