Act-1
Act-2
Act-3
Act-4
Act-5/5
The Drughouse Affair : Act-5
-]W-
最新のTHRUSHの麻薬工場まで、二人は無言で車を走らせた。
イリヤは何度か友人に何か、何でもいいから喋らせようと試みたが、ついに諦めて、窓から外をただ眺めていた。
建物の外側に辿り着いた時、イリヤはもう一度だけ言ってみた。
「――僕はずっと君を愛しているよ、Napasha」
車から降りながら、彼はそっと口にした。
もし振り向いていれば、ソロの顔に酷く辛そうな影がよぎるのを見たかもしれない。しかし彼は、再び無表情を取り繕った。
「取りかかるぞ」
まるで怒っているようにナポレオンは言い、車の後部座席から、爆薬の詰まった小さなケースを引っ張り出し、ホルスターから銃を抜いて、アプローチを登っていった。
イリヤがドアをこじ開けたと同時に、パートナーが戻ってきた。ナポレオンは、ケースの中身の半分を相手に渡した。
「君は右、僕は左に行く。部屋毎に一つずつこいつを仕掛けろ。タイマーは60分後にセットして、ここで合流する」
ドアをくぐり、別方向に向かいながら、彼は一度も友人の顔を見なかった。
ソロは麻薬工場に入り、左に曲がった。内部には誰も居ないようだった。4つの部屋に、それぞれ火薬を仕掛け、正面玄関に着いた。そこでイリヤを待っていると、背後で銃の撃鉄が起こされる音がした。
彼は凍り付いた。
「これはこれは、ミスタ・ソロ。お会いできて大変嬉しいよ」
背中から剣呑な声が聞こえた。
「貴殿の銃を下ろして貰えますかな、生きてパートナーと再会したいのなら」
ナポレオンは身を屈め、銃を床に置いて立ち上がり、ゆっくりと両手を上げて振り返った。
「イリヤは何処だ?」
銃を手にした、背の高い、黒髪の男が目の前にいた。この男には見覚えがあり、この地域のTHRUSH支部長だった。
男は彼の問いを無視して、右側にある小部屋に入るよう銃口を振った。ソロはゆっくりと歩みを進め、男に飛び掛かる機会を狙いながらドアを潜った。
部屋に入り、立ち止まって目にした光景に、彼はかっとなった。
イリヤが壁を背にして立ち、もう一人の男が銃を突き付けている。彼は両手を上に上げているが、唇が切れて、目の回りに青痣が広がっていた。
「イリヤ、大丈夫か?」
クリヤキンは彼をちらっと一瞥し、横にいる男に向き直った。
ナポレオンはパートナーと反対側の位置に立って、何らかの反撃に出られるような距離を取っていたが、その時、部屋に居た男の顔が目に入った。
彼は驚愕し、その男に自分が分からないように顔を背けた。その男に手招きされて、THRUSHのリーダーはソロに銃口を向けたまま、彼の回りを周ってきた。
体を屈めて、何事かを聞いたその男は、相手に耳打ちしようとしていた。話が続くにつれて、その男の様子は興奮ぎみになっていった。
イリヤは、二人の男がぼそぼそと喋っている間、ソロの顔がどんどん、紙のように白くなっていくのを怪訝そうに見つめていた。
嫌らしい笑い声を上げ、THRUSH幹部がナポレオンを振り返った。
「これはこれはミスタ・ソロ。この化学者の友人が言うことには、君は以前我々の客人だったそうだね。
それに、彼とその仲間が、君にちょっとした贈り物をしたというのに、君は無作法にも彼等のもてなしから逃げ出してしまったそうじゃないか」
その男の言葉の意味を理解し、自分のパートナーが深い溜め息をついたのを遠くに見て、イリヤの顔が青ざめた。ソロは、その男と視線を合わせはしたが、何も言わなかった。
THRUSHの幹部がまた哄笑した。
「いやいや、偉大なるナポレオン=ソロが、ただのヘロイン中毒者に成り下がったと知れば、THRUSH中枢部はさぞ興奮するだろうな。きっと、高らかに声を揃えて、君をまた意のままにするように言うだろう!」
化学者に目をくれると、男は唸るような声で言った。
「クリヤキンに銃を向けておけ。少しでも動けば、殺せ」
そしてテーブルに近づき、ガラス壜と注射器をつまみあげた。
「ミスタ・ソロ、ご面倒でなければ袖を捲っていただけますかな、今すぐに」
イリヤは必死の表情でパートナーを見、男が彼の頭部に銃口を突きつけた。
ナポレオンは、ちょっと首を振り、ジャケットを脱いでシャツの袖を捲り上げ始めた。目の中に気弱げな光が浮かんでいたが、その他は完全に落ち着いた態度だった。
THRUSH幹部が、ナポレオンの右側に立って、剥き出しの腕に手を掛けた時、二人は大きな物音を聞いて、振り返った。
イリヤが投げたナイフが、化学者の胸に突き刺さっていた。化学者は床に倒れながらも、反動で引き金を引いた。
床に倒れた恋人を見て、ナポレオンの心臓は飛び上がりそうになった。一刻の猶予も無く、彼はTHRUSH幹部に飛び掛かり、顔を二発殴りつけた。二人の男は床を転がり、注射器が絨毯の上に落ちた。
反対方向に転がり戻りながら、ソロは男を締め上げ続けていた。もう一度身体をねじろうとした時、下になっていた相手の身体が硬直し、動きが止まった。ナポレオンは下を見た。
THRUSHの幹部は、注射針の上に転がっていって、針が彼の首の後ろに突き刺さっていた。
相手の様子を見ることもせず、ナポレオンは起き上がってパートナーに駆け寄った。
「イリヤ?」
呼びかけながら、倒れている友人に手を伸ばす。腕時計を見ると、建物全体が爆発するまであと1、2分しかなかった。
若いロシアンを腕にすくい上げ、優しく胸に抱きかかえると、ナポレオンは出口に向かって走った。
ようやく車まで辿り着いた瞬間、建物が大爆発を起こした。車のドアを開けて、ソロは意識の無い恋人を、そっと助手席に下ろした。相手の横に膝をつき、頬を軽く叩く。
「イリヤ?大丈夫か?」
反応はなかった。パートナーの顎を持ち上げてみると、額が切れて血が流れ出していた。
「あぁIllyusha、ここで死なないでくれ」
ナポレオンは、スリムな身体を抱き寄せた。
「Illyusha、僕も、君を愛している。僕をおいていくな。お願いだから目を覚ませ、イリヤ――僕が悪かった。あんなに辛く当たるつもりはなかったんだ……」
恋人を固く抱きしめたまま、ソロは声を詰まらせた。
「Napasha、」
静かな返事が返ってきた。長い、すんなりした指が持ち上がって、彼の頬をそっと撫でた。
「Napash……ナポレオン、僕はなんともない」
イリヤが起き上がり、抱擁を解こうとした。力強い腕でそれを押し止め、しっかりと抱いた。
「イリヤ――あぁ、神よ感謝します!」
ナポレオンは屈み込んで、下になっている相手の柔らかな唇に、自分のそれを軽く触れ合わせた。
恋人から離れると、相手を優しくシートに凭れかからせた。
「大人しく座っていて。すぐ医局に連れて行く」
立ち上がりかけたソロは、さっきと同じしなやかな指に柔らかく腕を掴まれ、動きを止めた。
「ナポレオン、医者は要らない」
イリヤはきっぱりと言った。
「家に連れて帰ってくれるだけでいい」
「イリヤ、駄目だ」
彼は若いロシアンの、額の弾丸傷に目をやった。
「傷を医者に見せなくちゃ」
そして、傷のすぐ横に指で触れた。クリヤキンの顔が強張り、声は更に強硬なものになった。
「ナポレオン、もし君が本部に連れて行くというなら、僕はタクシーで帰る。このまま一緒に直帰するか、でなきゃ僕が遠回りさせられるかだ。でも、どちらにせよ僕は家に帰る」
パートナーの口調から、ナポレオンは言い争っても勝てないと思い、その頬に軽く手を滑らせた。
立ち上がって車の向うに回り、運転席に着いて車を発進させた。片目でパートナーの様子を見られるように、車をゆっくりと走らせるうち、自分達のアパートメントのあるビルに着いた。
駐車スペースに車を入れると、ナポレオンは一動作で車を降り、反対に周って、友人の為にドアを開いた。イリヤは、ゆっくりと車から滑り出て、ドアを支えに立ち上がり、少しふらついた。
ナポレオンは相手に聞きもせず、その身体に腕を回し、そっと胸に抱き寄せた。一言も話さず、エレベーターに運び込む。わずか1分で、エレベータは彼等を最上階の部屋まで送り届けた。
ナポレオンは、腕の中にあるのが壊れ物でもあるかのように、アパートメントに入り寝室へと向かった。
イリヤは、恋人の肩にしっかりと押し付けていた頭を持ち上げた。
「違う、ナポレオン。ソファに連れてけ。話があるんだ」
彼は、苦痛に満ちたヘーゼルの瞳を覗き込んだ。
「言い訳は無しだ!」
逆らえないものを感じて、ソロは友人を優しくソファに座らせてから、キッチンに行き、濡らしたタオルを手に戻ってきた。
パートナーの横に座って、彼はパートナーの額に走った傷をそっとタオルで叩いた。
イリヤは顔を顰めながら、パートナーに傷の手当てをさせたが、すっかり済むまでは黙り込んでいた。
「ナポレオン、ここに座れ!」
ナポレオンが、イリヤの反対側の端に腰を下ろした。
クリヤキンは、友人が居心地悪そうに、ソファの端に納まるのを見守り、腰かけ終るが早いか、恋人の強ばった身体に数インチほど詰め寄った。
「さあ言ってみろ、何があった?!」
ソロは、何とか自分のパートナーから目を逸らし、質問をかわそうとした。
「僕に何を言わせたいの?」
彼は軽く、不安げに、笑みを作った。
イリヤは、手を伸ばして相手の顎を強く掴み、こちらを向かせた。
「ナポレオン、何故君は辞職する?」
ナポレオンは顎を戻そうとしたが、その強い指を振りほどけるほどの力が出しきれなかった。
「大した事じゃない」
彼は視線を落とした。
イリヤは前に屈み、恋人の顎から手を引いて、目の前にある震える肩に両腕を置き、しっかりと掴んだ。
「Napasha……」
言葉と共に、彼は更に近づき、恋人の頬に熱い息を吐いた。
「なぜ僕から去ろうとする?僕が君なしでは生きていけないと知っているのに」
気持ちを伝えようと、低い掠れた声を出す。
ソロがやっと友人の方を向いた。今聞いた言葉に、心の中でダムが決壊した。
ナポレオンはこれ以上、涙を堪えていられなくなった。イリヤの肩に顔を伏せ、恋人に支えられて、彼は泣けるだけ泣いた。
イリヤは、友人を抱きつづけたまま、愛おしげに揺すり、むせび泣きがついに納まるまで、柔らかく受け止めていた。そして、そっと彼に耳打ちをした。
「Napasha、君を愛してる。大事なのはそれだけだ、分かってるだろう?」
ナポレオンはゆっくりと友人の肩から頭を起こし、顔から涙を拭って、じっと覗き込んでくる青い瞳に視線を合わせた。
「君が何故、まだ僕を愛しているのかわからないよ、イリヤ、」
彼の声が途切れた。イリヤは掴む手を強くした。
「ナポレオン、何が言いたいのか説明してくれ」
そしてすこし考え、言った。
「いいんだ。僕には解っていると、思う。麻薬に関係することだろう?でも、そんなことは何でもないと分からないのか?君は治ったんだし、僕等は一緒にいる」
ソロは、その紺碧の瞳を見つめ続けた。
「イリヤ、今日その目で見たように、僕はもうエージェントとして役に立たない。THRUSHは、いつでも好きな時に、また僕をヤク中に出来るんだ。それが有り得ると解っているから……だから僕は辞めようと決心を、」
彼はまた恋人から視線を逸らそうとしたが、その強い手を外すことは出来なかった。
「君が麻薬をどう思っているか知っている、イリヤ。あの朝出かける時に話し合っただろう。何故君は、まだ愛しているなんて言えるんだ?麻薬中毒者を?」
最後の言葉を口に出すソロの声が掠れていた。
「ウェイバリー氏に、今回の報告が済んだらすぐ、僕は出て行く」
イリヤは友人の顔から手を緩め、立ち上がって少しの間寝室に入り、予備の銃を持って戻ってきた。
弾装をチェックすると、カウチに戻って腰を下ろす。ナポレオンは怪訝そうな顔で、相手を見守っていた。
クリヤキンが彼の方を振り向いた。
「オーケィ、ナポレオン。君が先?それとも僕?」
彼は撃鉄を起こし、カチリと不吉な音が、無音の部屋に響いた。
「こうかな?」
銃口を上げ、自分の頭に押し付けた。
最愛の人間の頭部に銃が突き付けられるのを見て、ソロのハンサム・フェイスに恐怖の影が射した。
「一体全体、何をしてるんだ?!」
イリヤが少しだけ銃を下げた。
「これが君の考えじゃないのか?君の目を見ていればわかる。君はどこかに行って、たった一人でゆっくりと死んでいくか、銃を咥えて死ぬかするつもりだろう。それと、僕は取り残されるつもりはない――だから、どうせなら一緒にやっちまおうじゃないか」
彼は恐れを湛えたヘーゼル・アイと向き合った。
「どうだ?」
ナポレオンが手を伸ばして、パートナーの手から銃をもぎ取り、安全装置を戻した。
「気でも狂ったのか?!」
彼は怒ったように言った。
「後生だから、こんな……」
イリヤは、彼の頬を軽く指でなぞって黙らせた。
「君は、本心では死にたがってはいないみたいだな?そんなに一人になりたいのか?」
ソロは、銃をテーブルの向うの端に置き、友人を強く抱き締めた。
「Illyusha、僕は死にたくも、一人になりたくもない。でもこの問題はどうにもならないんだ。こんな事が起こるのは避けられないし、見過ごすことは出来ないよ」
イリヤはゆっくりと恋人の背筋に沿って手を上下に滑らせ、抱擁の心地よさに浸った。
「Napasha、もちろん決して起こらないようにすることは出来ないけど、何もかも駄目にしてしまう必要はないじゃないか。
奴が死ぬ前に言っていたことを憶えているだろう。THRUSHは、誰を捕らえていたか知らなかったんだし、二人とも死んでしまったから、もう知られることはない。僕等は、助かったんだ」
ナポレオンが深い息をついた。
「麻薬の事は?」
イリヤが再び恋人の視線を捕らえ、真剣な表情で言った。
「今までどちらかがTHRUSHに捕まって、酷い目にあってきたこととどう違うっていうんだ?今度の事が後を引く可能性があったのは認めるが、そうはならなかった」
彼は腕の中のしっかりした身体を、手で擦り続けた。
「もし僕が捕まって、負傷していたとすれば、君は僕が治るまで手を貸してくれるだろう?そうじゃない?」
ナポレオンが腕に力を込め、恋人を肩口に押し付けた。
「ああ。それに、必要ならばいつまででも、君を支え続ける」
イリヤはその強い肩に、額をおしつけたままでいた。
「なら違いはないじゃないか?僕は、君を愛している――例のお決まりのセリフで『病める時も健やかなる時も』ってやつだ。
僕等は、何度か最悪の事態を予測してきたけど、ずっとうまくやってきただろう?」
ナポレオンは激しく息を呑んで、また泣き出しそうになるのを堪えた。
「愛している、My Illyusha。ごめんよ……」
「ごめんは要らない、ただ、今日のような事は二度としないと約束しろ」
ナポレオンは暫く黙って、何事か考え込んでいた。
「Illyusha……」
そして友人の両手を取り、手と手を合わせた。
「約束する。僕は二度と、君に自分の気持ちを隠したり、除け者にするようなことはしない」
「約束だけじゃ、十分とは言えないな」
イリヤは、恋人に奇妙な視線を投げ、愛しげに握られている自分の手を見た。
彼はソロの両腕を自分の膝に置き、自分の手からマリッジ・リングを外して、ナポレオンの左手を取り、指に嵌めた。ぴったりと合っていた。
それから何かを問うように、相手の目を見つめた。
ナポレオンはためらうことなく、左の小指の指輪を外して、イリヤの左手を取り、指輪を滑り入れた。
「永遠に――愛しい君」
「永遠、プラス1日分」
イリヤが身体を傾げ、ナポレオンの唇に、自分のそれを軽く触れ合わせた。ナポレオンは、優しい愛撫を受けながら、イリヤを腕の中に包み、口接けを深くしていった。
二度と離れまいとするかのように、彼等はお互いを抱き締めあい、舌が優しく触れ合い、探るような動きに変わった。
キスを中断し、ナポレオンは立ち上がって恋人を横に立たせた。言葉を交わさないまま、二人は子供のように手を繋いで、寝室へ歩いていった。
ベッドの脇に立ち、彼等はお互いを見つめあった。無言で分かり合った、
愛情に輝く
青とヘーゼルの瞳で。
慌ただしく服を脱ぎ捨てると、彼等は手足を絡ませ合い、再び唇を重ねながらベッドに縺れ込んだ。
今度はイリヤが唇を離した。
「Napasha、」
ナポレオンが右手を持ち上げ、恋人の頬に軽く触れた。
「うん?」
彼はその手で、金色の髪を撫でた。イリヤの瞳が、情熱で深い色に変わる。
「Napasha、僕は君を愛したい。たまらなく君が欲しい――君が確かにここにいて、生きているということを僕自身で確かめたいんだ」
ナポレオンが仰向けになって、両腕を脇に下ろした。
「僕の全ては君のものだよ、イリヤ。君のお好きに」
イリヤは屈み込み、滑らかな唇をもう一度自分のそれで塞いだが、すぐに相手の顔じゅうに口接け始めた。優しく唇をまぶたに、頬に走らせ、耳たぶに軽く歯を立てた。
「Ыа Лёобло Вас (I Love You) 僕のNapasha――いつまでも」
ナポレオンは少しだけじっとしていたが、両手で恋人の頬を挟み、顔を傾け、互いの瞳を見つめあった。
「僕も、いつまでも君を愛している、イリヤ」
そして紅潮した頬から手を離した。
「さあ、僕に会えてどんなに嬉しいか見せてくれ……君が、欲しい」
イリヤはベッドサイドに手を伸ばし、オイルの入ったちいさな壜を取り出して、中身を少し手にとった。ベッドの足元に身体を滑らせ、イリヤは恋人の肉体に、オイル・マッサージを始めた。
足先から始めて、両脚をゆっくりとせり上がり、ナポレオンの反応しはじめた昂ぶりには注意深く触れないようにした。
手で小さな円を描きながら、優しくオイルを塗り広げ、マッサージを続けながら相手を煽る。指で訴えかけながら、下に引き据えたボディを優しく愛した。
膝を進めて、イリヤはナポレオンの腹部の両脇に足をついて跨った。手にオイルを垂らし直すと、柔らかく恋人の指先を、腕を、そして肩をほぐしていった。
ナポレオンは夢見心地だった。彼の全身は弛緩し、既に硬くなった自分の昂ぶりが、イリヤの臀部に軽く当たった感触にも、瞼すら持ち上げられなかった。
イリヤが、パートナーの二つの胸の尖りに手を滑らせ、そこが石のように硬くなるまで揉みしだいた。もう一度体勢を変え、ベッドの足元に戻って、両脚の間に割り込む。
手早くオイルを塗り直して、壜をベッドサイドに戻した。ナポレオンの血走って紅くなった性器を両手に取る。張りつめたそれを上下に擦り、先端の回りに優しく指を滑らせ、また濃い陰りへと手を戻し、恋人の快感の呻き声が聞こえてくるまで止めなかった。
掴んでいた手を離し、彼はもう一度ナポレオンの腹部に跨った。
「Illyusha……頼む、」
ナポレオンの唇から、低い呻き声が漏れた。
「もう、持たない……」
イリヤは、屈み込んでパートナーの唇に軽く口接けたあと、マッサージを続けた。もう一度固い乳首をさすり、ナポレオンの顔に浮かぶ、混じり気なしに恍惚とした表情を眺める。
イリヤは自分の脚を起こして、ゆっくりと自分の身体を、恋人の固い漲りに落としていった。
恋人の体内にすっかり取り込まれて、ソロは一度喘ぎを吐き出した。
「あぁ……Illyusha、い、い――」
彼は恋人の動きに合わせて、腰を突き出そうとしたが、マッサージで弛緩しきった身体は動かすことさえ出来なかった。
まさに自分の思い通りに事を運び、クリヤキンは自分の体を、恋人の身体の上で上下させ続けた。ほとんど抜けそうになるまで持ち上げては、また血走った漲りを完全に咥えこむまで身を落とす。
「Illyusha、そんなに、したら……もう、」
ナポレオンに言えたのはそれだけだった。彼は全身を強ばらせ、叫び声と共に相手の体内に遂情し、ぐったりと枕の上に仰向けになった。
イリヤは、恋人が完全に達してしまったのを感じてから、力を失った性器から身体を引き、オイルの壜を取り上げて、相手の両脚の間に戻った。
ナポレオンの瞼がまだ閉じられたままなのを見ながら、掌にオイルを注ぎ、自分の張り詰めた昂ぶりに、軽くオイルを撫でつけた。
そして恋人の両脚を肩に担ぎ上げ、彼の内部へと身体を進めた。
イリヤ自身に前立腺を擦られる、予想もしていなかった感触に、ナポレオンが激しく喘いだ。
「I……llyusha、」
恋人が腰を上下させはじめ、彼は呻き声をあげる。前立腺が刺激される度に、喘ぎが繰り出された。
ナポレオンの身体にすっかり納まりきった感覚は、イリヤにも刺激が強すぎた。もう一度腰を動かすと同時に、彼は意識するひまもなく昇りつめ、恋人の名を叫び、倒れ掛かるようにして絶頂した。
ナポレオンの上にやわらかく乗りかかって、イリヤはもう一度相手に口接けた。重ねた唇が開いて、彼の舌を内部へと導く。息が続かなくなるまで、長いキスは続いた。
「あぁ、Illyusha、こんなに感じたのは初めてだ――」
ナポレオンが、恋人の耳にそっと囁いた。
イリヤが起き上がって、何か話そうとした時、ソロのコミュニケーターがけたたましい音を立てて静寂を破った。
イリヤは疲れきった身体を横に転がし、ナポレオンの横で枕に凭れた。同時にソロは、ベッドサイドに置いたコミュニケーターに手を伸ばした。
「こちら、ソロ」
彼は喘ぐように言った。
「ミスタ・ソロ?」
ウェイバリーの落ち着き払った声がした。
「心配していたんだよ。爆発があったことは分かったが、君からも、ミスタ・クリヤキンからも報告が無かったのでね」
ナポレオンは、疲れきった様子ですぐ側に横たわっているパートナーに、軽く微笑んでみせた。
「申し訳ありません、Sir。イリヤがちょっと怪我をしたので、連れて帰って手当てをしていました」
イリヤが少し寝返りを打って、パートナーの逞しい肩に頭を載せ、もう一度目を閉じた。
ウェイバリーの口調は落ち着きはらったままだった。
「ミスタ・クリヤキンの怪我は、ひどくはないのだね?」
「違います、Sir」
応答しながら、ソロは空いた方の腕を恋人の身体に巻き付け、しっかりと自分に押し付けた。
「任務は完了しました。麻薬工場は破壊済み、ついでに、麻薬精製を任されていた化学者が、爆発で死亡」
「大変結構だ、ミスタ・ソロ」
ウェイバリーは一旦言葉を切った。
「何か、私と話し合いたいことはあるかね?」
ウェイバリーが何を尋ねているのかに気がつき、ナポレオンは少し考えてから答えた。
「いいえ、Sir。明朝一番に、正式な報告に出頭します。それで宜しいでしょうか?」
ウェイバリーが口元に笑いをうかべたのが、目に見えるようだった。
「いいだろう、ミスタ・ソロ。君達には明日の朝会うとしよう――通信終り」
コミュニケーターをベッドサイドに戻し、ナポレオンはまたベッドに横になって、もう片方の腕も、恋人に巻き付けた。
「君は、これがどういうことなのか分かってるのかな?」
イリヤが片目だけ開けて、パートナーを愛しげに見つめた。
「どういう意味だい?」
やや戸惑ったように、彼はもう片方の目も開いた。ソロは彼をぎゅっと抱き締めた。
「指輪を交換したんだから、これで僕等の関係は完全になった。つまり僕は永遠に、君を離さないって事だよ!」
そして相手の秀でた額に、軽くキスをした。
イリヤは顔を傾げ、もう一度キスを受ける。
「永遠(forever)じゃ足りないな、Napasha……」
彼は眠たそうな声で言った。
「もう少し長くならないか?」
そしてもう一度目を閉じる。ナポレオンは枕に仰向け、恋人を抱き寄せて、目を閉じた。
「無限(infinity)に――ならどう?」
若いロシアンからは、静かな息遣いしか返ってこなかった。
「良い夢をごらん。僕のIllyusha」
囁きと共に、彼はまどろみながら深い夢の中へと沈み込んで行った。
The End
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